偶発症ゼロのポリープ切除法の開発
始 文責

 東京 文京区 高精度保証 大腸内視鏡 本郷メデイカルクリニック
めに


ポリープ切除に伴う偶発症には「出血」と「穿孔(切除した傷が広がり腸壁に穴が開くこと)」があります。
特に、頻度の多いのは出血で、切除後、数日してから仕事中、旅行中などに起こるため患者さんの負担が大きくなります。(晩期出血)

これらの偶発症の危険をゼロにできないために以下のような議論が昔から続いています。

(1)微小なポリープを切除すべきか?という議論
微小なポリープは癌の可能性が低いのだから偶発症の危険を考慮し切除せずに「経過観察」にすべきという主張と、逆に放置した病変は増大するのだから、放置は問題の解決を先送りしているに過ぎないという主張の対立です。

(2)ポリープ切除は入院でおこなうべきか?という議論
ポリープ切除は原則、全て入院で施行するという施設があります。これとは逆に、偶発症の可能性と入院に伴う時間的・経済的損失を比較すれば入院は大きなポリープの切除だけにすべきという施設もあります。


「偶発症ゼロのポリープ切除法」が開発されれば・・・・・これらの議論には、終止符が打たれる訳です。


なぜポリープ切除の偶発症が起こるか?原因は電気メスで焼き切り「ヤケド」を作るから
従来のポリープ切除は電気メス(高周波電流)を使い「焼き切る」のが普通です。

何故、単純に切るだけでは駄目で「焼く」必要があるか?理由は3つあります

(1)切除時の出血を防ぐ(2)組織が厚く硬い場合、血管が太い場合は焼かないと切れない(3)火傷により広範囲な組織損傷(Burning Effect)を起こし腫瘍細胞の遺残を防ぐ

しかし「熱で焼く」という部分が、偶発症の根本的な原因なのです。
医師は経験と勘により熱の広がりを調整します。経験を積めば偶発症の頻度は減りますが、人体組織の熱伝導率には不確定な要素があるため火傷の程度を確実に予測はできません。これが偶発症の可能性がゼロにできない理由です。

逆に医師が偶発症を恐れ十分に焼かないと、高率に腫瘍細胞が「遺残」し再発します。
最近、米国では「医師が十分に焼かない」ために腫瘍の再発が極めて多いということが問題視されています。(文献 )
これは医療事故で高額な訴訟となる米国の事情が背景にあると思います。




偶発症ゼロのポリープ切除法=電気メスを使わない「コールド・ポリペクトミー」の開発

腫瘍を取り残すことなく偶発症ゼロで完全に切除する方法は無いか?
この解決を求めいくつかの方法が試行されてきました。
「食塩水の局注を施行する」「切り取らずに表面をアルゴン・レーザーで焼くだけにする」「切除後にクリップをかける」などです。

そして近年、欧米で主流になっているのが電気メスを使わずにスネアー(ワイヤー)で「皮一枚をはぎ取るように」粘膜を切除する方法(コールド・ポリペクトミー)です。

この手技では「血液を固まり難くする薬」を服用している方でも晩期出血の危険が極めて低いと報告されています。(堀内 他、Gastrointest Endosc2014 Mar)



実際の写真です。
コールド法では「取り残し」を防ぐために病変を囲むように広く大きく切除します。傷は「広く浅く」なります。

「生切り」なので、当然、内視鏡中(切除時)は出血します(患者さんが不安になります)。しかし、出血は数分で止まり、晩期出血は、まずありません。

ポリープ(腺腫)は粘膜に限局した病変であり、粘膜を切除すれば根治できる。そして粘膜のレベルの「なま傷」は、大きくても治癒が早く重大なトラブルを起こさない。という事実がこの手技の理論的根拠になっています。


手技が難しいのが最大の問題。今後の器具の開発が鍵

コールド法の最大の問題は「取り残し無く、周囲に十分な余裕を持って病変を剥ぎ取る」のが難しいということです。そのため従来の方法よりも時間がかかる場合が多いです。しかし平成25年秋から26年春にかけて「コールド法専用にデザインされた切除器具」が日本で発売されました(ボストン・サイエンテイフィック社、US Endoscopy社)。今後、多くの企業が、この分野に参入し新しい器具が開発されるはずです。数年後には「ポリープ切除に偶発症は避けられない。切除後の安静が必須だ」という常識が過去のものになっているかもしれません。

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