大腸内視鏡の「命の延長効果」を経済的に考察する

大腸検査は1日がかりの検査であり、検査を受けることによる「経済的損失」は決して無視することはできません。そのため大腸内視鏡を国の経済的観点から解析するという研究が欧米では昔から盛んです。

1993年米国で内視鏡でポリープを切除することで大腸癌の「発生 」の8〜9割が予防できるというの報告が報告されました( The National Polyp Study 参考)。

「自分は絶対に大腸癌になりたくない」と希望する方は定期的な大腸内視鏡を受けるべきである・・・・これは間違いありません。

しかしながら、一方で大腸癌は他の癌に比べて手術による根治の可能性が高い癌です。

無理に無症状な段階で定期的な内視鏡(+ポリペクトミー)で予防しなくても便潜血・血便などの「兆候」がでてから検査し、癌が見つかってから手術しても根治の可能性があります。

「大腸癌による死亡を回避する」という目的をコスト効率で考えた場合、大腸内視鏡を受けることは得か損か?

最近、この問いに対する大規模臨床試験の答えが報告されました( N Engl J Med 2012; 366:687-696. )


要約しますと

平均すると我々は23年間で100人中48人が死亡します。この48人のうち2人は大腸癌による死亡です。

(正確には23年間で2600人中1246人が死亡した。その内25人が大腸癌による死亡)

定期的な大腸内視鏡(+ポリープ切除)を受けたグループでは・・・・・

100人中48人が死亡します。この48人のうち1人は大腸癌による死亡です。

(正確には2600人中1246人が死亡した。その内12人が大腸癌による死亡)

つまり大腸内視鏡による大腸癌の死亡抑制効果は50%であった・・・というのが今回の報告です。


以下、私の計算です

大腸癌で死亡するのが平均65歳、平均寿命が80歳(15年寿命が縮まる)と仮定しますと

どの程度の間隔で大腸内視鏡が施行されたかのデータは論文にはありませんが米国では「50歳から75歳まで5年に1回(ただし危険なポリープが見つかったら3年後)」というのが平均的な検査として推奨されています。(10年に1回+毎年の便検査という意見もあり、この辺の方針は少しブレがありますが、とりあえずこの数字は妥当です)

多くの方がこの推奨に従ったと仮定すると50歳、55歳、60歳、65歳、70歳、75歳で大腸内視鏡を受け(計6回)、途中1回くらいは「危険なポリープ」が見つかると考え、1回余分に受けると考えると、生涯の大腸内視鏡の回数は平均7回位でしょう。

2600人が生涯、平均7回の大腸内視鏡を受けることによる経済的損失=2600x7=18200日

2600人がその結果、受けた生存延長の恩恵=(25−12=13)x15年x365=71175日(一人当たり27日間の生存延長)

71175/18200=4日ですから

期待値として「1回(1日を費やしての)の大腸内視鏡で4日の命を得ることができる(3日の生存を得をする)」・・・・という計算になります。


多の方の印象は「たった3日間の効果しか無いのか・・・」でしょう。これは様々な人の平均値であり、大腸癌の危険因子の多い方ならメリットは、より大きく、危険因子の少ない方はより小さくなります。

とりあえず・・・・危険因子の不明な方(つまり平均的リスクの方)が大腸内視鏡を受けるべきか迷っている場合に、「1日を費やす価値はある。期待値として3日間命が延びるのだから」と検査を決断する一つの材料になるでしょう

 



このシュミレーションを別の角度から見てみましょう

大腸内視鏡に費やす生涯の日数は「27日間以下なら得」「27日以上なら損」という計算になります。

もし1回の検査に4日の手間がかかる(事前診察+最初の検査+ポリープ切除は後日+細胞検査の結果説明)なら・・・・

生涯の検査回数が平均7回では・・・・

4日の手間をかける大腸内視鏡は経済的に損失である。医師は患者さんに大腸内視鏡検査を勧めるべきではない。勧めることは患者さんに損害を与えることになる」という結論になります。

有効な大腸癌予防のためには「生涯検査数7回」を減らすのは難しいです・・・

すると結論として

大腸検査1回に4日以上の手間をかけてはいけない」というのが結論になります。


将来は・・・こんな保険ができるかも。