悪玉菌を治療に使う

以前、衛生仮説というのを紹介しました。

簡単にいうと大腸内が不潔(雑菌が多い)な方がアレルギーや自己免疫疾患になりにくい。これらは清潔すぎることが原因であるという仮説です。

どうしてかというと・・・腸内細菌に免疫を抑える作用があるからなのです。これは我々の免疫系が腸内細菌を攻撃せずに「共存」しているメカニズムでもあるのです。

そして東大の研究チームがクロストリジウムという菌が免疫系を抑制する主役らしいと報告しています(Science 2011 Jan)

ところでクロストリジウムというのは典型的な「悪玉菌」です。つまり「悪玉菌」が腸内細菌との「共存」をつかさどっているということです。

免疫を抑制するのですから、悪玉が増えすぎると・・・・感染を超し易くなり人間に有害なのは想像がつきます。

しかしながらアレルギーや自己免疫疾患は「免疫が強すぎる」ために発症しますから、この悪玉菌をうまく使えば治療に有効なのではないか?・・・・という発想がでてくる訳です。

最近、慶応大学のグループがクロストリジウムの別なタイプを使い、炎症性腸疾患のモデルマウスで「経口投与による治療に成功した」と報告しました(Cell Host & Microbe」2013年6月号記事


似たような研究なのですが、東大グループの菌は「抑制性T細胞」を介して働き、慶応グループの菌は「マクロファージ」を介して働きます。つまり、違う作用を持った菌株です。

以下は私のかってな私見なのですが・・・・

特殊な腸内細菌(株)を治療薬として使うというアイデアは今後、大きな流れになる重要な物と思います。

似たような研究としてウイルスを血管内に投与する「遺伝子治療」があります。しかし細菌の方が、はるかに効率的、安全、廉価であり大きな可能性を持っています。

これからは「悪玉菌は宝の山。悪玉菌の中から治療に使える菌を探せ。」という特許競争のようなことになるのではないかと思います。

競争により患者さんには治療の選択肢が増えるわけですので非常に善いことです。


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