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大腸癌の原因はウイルスか?ハウゼン博士の説を検証する
鈴木雄久(レトロウイルスで学位をとっています。Journal of Virology vol68,p3527,1994)
TTVはパルボウイルスに属しEnvelopを持たないDNA1本鎖ウイルスである。「熱に強く消化に耐え糞便からの経口感染も起こす」
したがって「レアーの牛肉内のTTV」が大腸に到達する可能性は十分にある。
また犬のパルボウイルスは、腸陰窩細胞に親和性が高く、これを破壊し腸炎を起こす。(人では赤血球に感染してリンゴ病を起こすことしか知られていないが・・・・)
これは逆にいえば、ウイルスゲノムの一部が欠損しウイルス粒子が作れなくなると腸陰窩細胞を破壊せずに慢性持続感染することを意味する
ハウゼン博士が指摘する前からTTVが癌の細胞に見つかるという報告は、いくつもあった(最新のものではInt J Cancer. 2007 Nov 1;121(9):2109-12. TTV infection in colorectal cancer tissues and normal mucosa)。
しかし、TTVは肝臓癌細胞のゲノムには組み込まれない(Nippon Rinsho. 1999 Jun;57(6):1370-4. [Prevalence of TT virus infection and viral integration in human hepatocellular carcinoma)という報告や、健常人にも広く蔓延している事実からはTTVを発癌性ウイルスと考えるのは抵抗がある。
また、TTVに限らず、パルボウイルス は一般的に「腫瘍細胞内に多く検出される」ことが既知である。これはウイルスが発癌性を持つからではなく、増殖の盛んな細胞内でウイルスがよく分裂するからという「結果」であるというのが定説であった。
しかし、同じ迷走がHPVにもあった。HPVも人に広く蔓延し、感染しても多くは良性のイボで自然消滅する。一部のサブタイプで欠損体がゲノムに組み込まれて「免疫学的、ウイルス学的に」サイレントな状態になった時に癌を起こす。
HPV(ゲノムは2本鎖DNA)もそうだが、TTVはそれ以上に変異(サブタイプ)が多い。これはTTVのゲノム=single strand DNAは複製の際に「変異の修正」ができない(敢えてしないという進化上の戦略を選んだ)からである。
「つまり、人に広く蔓延している、通常は無害な非常に変異の多いウイルスが,希にある配列になると発癌性をもつかもしれない」という話である。このようなウイルスを研究するノウハウをハウゼン博士は「HPV研究から持っている」と自信をもっているのだろう
発癌の機序は?
TTVの持つDNAポリメラーゼはsingle strand DNAを鋳型にしてdouble strand DNAを作る。このポリメラーゼ自身が細胞のゲノムを分裂させる(発癌性がある)とは考えられない。想定される発癌メカニズムは次の二つだろう
(1)増殖の盛んな細胞内でTTVウイルスがよく分裂する。したがってHPVのE6、E7のように「自分に有利なために宿主の細胞分裂を促進するサブタイプ」がいるのかもしれない。そのようなサブタイプは「優勢株」である
(2)パルボウイルスは増殖の過程で「プラス鎖」と「マイナス鎖」DNAを作る。カプシドが壊れれば容易に二重鎖DNAができる。そのようなDNAが宿主ゲノムと相同性が高い領域に組み込まれ、癌抑制遺伝子を不活化する