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大腸癌の遺伝子分類

近年、大腸癌の全遺伝子を解読する、という「以前は想像もできなかったスケールの大きな」研究が盛んです。その成果として今、注目されているのが大腸癌の「遺伝子分類」です。

基本的な話
   DNAは細胞の最も基本となる設計図です。

この設計図を元にして「実際の製造の指示書(RNA)」が作られます

「遺伝子で分類」と言っても、DNAで分類するのか、RNAで分類するのかで違います。

解り易い例で言うと

日本に生まれた一卵性双生児のA君とB君がいたとします・・・

A君はアフリカへ里子に出されました。皮膚は黒くなり暑さに順応しました。

B君は北極へ里子に出されました。体毛は濃くなり寒さに順応しました。

この場合

A君もB君もDNAは全く、同一で「日本人型」ですが

RNAはA君は「アフリカ人型」、B君は「エスキモー型」になっています。

厳密に言うと・・・・・A君とB君のDNAは環境により僅かに違いができます(エピゲノム)

しかし、この違いを検出するのは技術的に難しいため、二人の違いは
「DNAでは検出されない。RNAで検出される」ことになります。



大腸癌のDNA解析
このサイトでも以前、ご紹介しましたが(「大腸癌の全遺伝子解読」)ここ数年、複数のグループの競争の末、総計300名の大腸癌の全遺伝子が解読され、DNAレベルでの分類がおこなわれました。

それは以下のように二つのグループに分けるというものです〔文献)。
  DNAの安定性  変異している代表的遺伝子  臨床的特長
hypermutated  DNAの点変異を修復する機能欠損が多く
点変異レベルでの異常が蓄積する
microsatellite instability (MSI),
with hypermethylation

 
 hypermethylation and MLH1 silencing,
BRAF V600E mutations

ACVR2A, APC, TGFBR2, MSH3, MSH6,
SLC9A9 and TCF7L2
 右側に多い
比較的予後が良い
遺伝性大腸癌(HNPCC)はこのタイプ。
 non-hypermutated  染色体の分離を司る機能の障害が多く
染色体レベルでの組み換えが蓄積し、
「融合遺伝子」が大量に作られる
microsatellite-stable
but chromosomally unstable 
 APC, TP53, SMAD4, PIK3CA and KRAS
ARID1A, SOX9, and FAM123B/WTX. 
FBXW7,
TCF7L2 and NRAS
amplifications of ERBB2 IGF2
fusion of NAV2 andTCF7L1. 
 左に多い
腺腫から癌化する、最も一般的な大腸癌

英語の遺伝子名の羅列は「ご愛嬌」です。

重要なことは・・・・

今までは「APCの変異した大腸癌」とか「MLH1の変異した大腸癌」などというように「個々の遺伝子異常の次元」で語られていた「大腸の癌化」が、より包括的な視点で整理されたということです。
つまり・・・・・大腸癌は二つのグループ(DNAの点変異を修復する機能が欠損した癌と、染色体の分離を司る機能の障害した癌と)に分けられ整理されたという訳です。

「大腸癌が二つのグループに分けられる」というのは随分前から臨床的に言われていたことで、DNAの解析でそれが「裏付けられた」という訳です



そして今回・・・・・、この研究では「大腸癌のRNAを解析してグループ分け」を試みました。

すると・・・・3つのグループに分けられました

グループ1・・・・「DNA分類のnon-hypermutated」に相当

グループ2・・・・「DNA分類のhypermutated」に相当

DNAが違えば、RNAも違うので、ここまでは想定内の話・・・・

ところが

第3のグループが同定された訳です。

この第3のグループは「microsatellite ,hypermethylation,BRAF、KRAS」などの変異が「あるものもあれば、無いものもあり。DNAレベルでは統一的な特徴は記述できない」ということも解りました。

そして「非常に予後が悪い」「過形成ポリープと深い関係がある」「右にも左にも同率で発生」などが解ったということです。

このような高度な研究が発表される前から、臨床的に「第3のグループがあるのではないか?(Serrated Pathway)」という推測はありましたが、遺伝子レベルでの裏づけがありませんでした。

「DNA解析では認識されなかった「第3のグループ」が、RNA解析で同定され、以前からの臨床的な分類と符号した」という訳です。

どうして、DNA解析とRNA解析で食い違いが生じたのか?

おそらく、上記のA君とB君の話と同じようなことなのでしょうが、その詳細は現時点では不明です。

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