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速報:大腸癌の全遺伝子が解読された

 

以前「大腸癌の全遺伝子が解読される日」で遺伝子解読競争を太平洋戦争に例え Bert Vogelstein 博士(Johns Hopkins 大学)が先頭を走っているようだと書きました(文献、および論文への他の科学者の論評

2011年9月5日のNatureによると全く別のグループが「先を越した」ようです(論文)。いきなり先頭に立ったのは Meyerson 博士。

Vogelsteinのように昔から「大腸癌を専門に研究していた科学者」ではなく我々胃腸の専門医には初耳の科学者です・・・・MIT、ハーバードの共同グループで「ゲノム解読方法」を専門に行っていた研究者のようです(過去の論文)。また上記()でVogelsteinの研究を「サンプルが少なくバイアスが多い」と強く批判しています。

大きく違うのは「解析したデータの量」です。

Vogelstein達は11人の患者のDNAで「本分の部分(コード領域=全遺伝子の約、1割)」を解読しました

ですからデータの量は「人ゲノム計画」と大体、同じです

今回、Meyerson達は9人の患者の「癌と正常粘膜の全ての遺伝子(人ゲノム計画を18回分です)」を解読しました

一番、ショックを受けているのはVogelstein博士でしょう。

 

Vogelstein博士 Meyerson 博士

これは医学の研究の主役がコンピューターを駆使した大規模共同研究にシフトしたことを象徴していると言えます。


これは大腸癌発生の原因遺伝子を予測した現在の標準モデルで別名「Vogelsteinモデル」と呼ばれます。このモデルは大きく書き換えられ「Meyersonモデル」となるでしょう。

原因遺伝子が全て同定されれば・・・・臨床は大きく変わります

「診断」は今までは病理診断という「熟練を要する医師の主観」が主でしたが、今後はDNAチップによるデジタル診断が主流になります。

そして、治療です。

分子標的薬」は大成功している薬もあれば副作用が問題(裁判)となっている薬もあります。過去に開発され最も成功した(=副作用が無く癌だけに著効する)分子標的薬は「グリベック」です

グリベックが、成功した 理由はBcr-Ablという「融合遺伝子」を標的にしているからです。「融合遺伝子」は100%、癌にしか存在しない分子なのです。

今回、Meyerson達が新たに見つけた遺伝子の中には「融合遺伝子」もあると報告されています。これは注目すべきことです。


また大腸癌の発生には「ポリープから発生する」という腺腫説と,「正常粘膜から発生する」というde novo 説があります。このどちらにも説得力あるデータがあります

この研究はこの論争に「ファイナルアンサー」を出すでしょう



追記

2012年、更に大規模な解析の報告がありました。

Cancer Genome Atlas Networkという米国のプロジェクトが276人の大腸癌の全遺伝子解読の報告をおこないました。

この報告で米国の「大腸癌の遺伝子解析競争」は最終結論に達したようです。

この結果、大腸癌は二つのグループに分けるという、新しいモデルが提唱されました。(詳しくはこちらの記事を

Vogelstein博士、Meyerson 博士、お疲れ様でした・・・・

今後は「この遺伝子が変化している場合は、この薬剤が有効」というような形での「臨床応用の時代」になるでしょう。

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