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肛門科相談室

これは「日刊現代」で、1999年3月〜9月に掲載された肛門科相談室 の抜粋です。
読者からの質問には辻仲康伸(辻仲病院院長)が回答しました。

QUESTION
  • 痔は自宅で治せないものですか。それともやはり病院で診てもらったほうがよいのでしょうか。
  • 下痢をした後に急に肛門が腫れて痛くなりました。熱も37度あるのですが。
  • 便秘気味で硬い便をすると肛門が痛くなり、排便が苦痛に。たまにトイレットペーパーに血がつくことも
  • 肛門にできものができて軽い出血も。痛くはないのですが、挟まったような感じで不快です。
  • 排便時にちょっと力を入れると肛門からイボのようなものが出てきます。指で中に押し込んでいるのですが?
  • 痔からがんになるという話を聞いたことがあるのですが、本当ですか・・・。
  • 急に肛門周辺がヒリヒリ痛くなり、かゆみもあります。これも痔の一種?
  • 妻が痔を患い、病院に行くことを恥ずかしがって拒否しているのですが・・
  • 最近便が細くなってきました。一度痔を患ったことがあるのですが、それが原因でしょうか
  • 痔が痛くて仕方がありません。仕事が忙しいので日帰り手術で治りませんか
  • 7、8年前に痔の手術をしたのですが、ここ1年、脱肛して出血もします。再手術は必要ですか。
  • よく3人に1人が“痔主”と言われますが、予防する方法を教えてください。
  • 最近、ゴルフをすると痔が出て痛くてたまりません。どうすればいいのでしょうか・・・

ANSWER

 

【羞恥心を捨て専門医を訪ねよう】

Q.痔は自宅で治せないものですか。それともやはり病院で診てもらったほうがよいのでしょうか。

A.成人の3人に1人が痔であるといわれ、とてもポピュラーな病気なんですよ。突然の痛み、排便時の出血、それに不快なかゆみや不便きわまりない脱肛・・・・・・。まあ気軽に人に聞けないものですよね。羞恥心もあって病院を訪ねることができないのでしょう。わたしの病院は大腸肛門が専門で毎日、痔で困っている人を多く診断・治療、そして3000件を超える手術も行っています。その経験からいうと薬で治る、注射で治す、結さつして治すなど切らない痔がほとんどです。ケースによっては専門的な手術治療が必要な場合もありますが、手術でも入院なしで日帰りでOKの場合も多いんですよ。まずは専門医に診断してもらうのが肝要です。痔の種類もさまざまだし、正しい知識と適切な治療方法を教えてもらうこと。必ず解決策が見つかります。そうすれば痔で苦しまないで済みますよ。


【専門医の適切な処置で厄介な痔瘻を完治させる】

Q.下痢をした後に急に肛門が腫れて痛くなりました。熱も37度あるのですが。

A.肛門周囲膿瘍が考えられます。下痢の時には、何度もいきみを繰り返します。この排便時の圧力によって、便中細菌が肛門腺へ進入。これで化膿して膿のたまりを作るのです。肛門の痛みと発熱は膿の腫れの範囲が広いほど、また直腸側へ深く膿がたまるほどひどくなりますので、早期に切開することが必要です。膿が出れば痛みと熱は下がり急に楽になります。しかし、これで安心してはいけません。痔瘻(じろう)になることが多いのです。つまり肛門内部の膿を出した時から適切な治療を受けることが肝要なんです。専門医以外で治療してさらに悪化した例もあり、肛門機能障害の原因となってはとりかえしがつきません。私の病院では、患者さんの中で、最も多いのがこうしたことが原因の難治性になった痔瘻です。肛門周囲膿瘍は薬だけでは治りませんので、切開を受ける時から専門医の受診を。


【裂肛の治癒は排便習慣の改善で】

Q.便秘気味で硬い便をすると肛門が痛くなり、排便が苦痛に。たまにトイレットペーパーに血がつくことも。

A.排便後に発生した肛門痛は肛門上皮というものが裂けることによって起こることが多い。いわゆる裂肛(れっこう=きれ痔)といわれるものです。いきなり深く裂けるようなことはなく、軽い裂創から始まります。排便さえスムーズであれば自然治癒するものですが、繰り返しの硬便や下痢などによっていきみを繰り返すことで裂創が深くなり、肛門潰瘍や肛門狭窄になり出血したりするんですよ。でも多くの裂肛は排便習慣の改善、座薬の投与で治ります。安心してください。ただし、裂肛の10%は外科的処置を必要とする場合もあります。肛門上皮が裂けることを繰り返すと、これが悪循環になってしまいます。まずは早めに専門医の受診をおすすめします


【いぼ痔の手術は痛みが少なく入院期間は短め】

Q.肛門にできものができて軽い出血も。痛くはないのですが、挟まったような感じで不快です。

A.これは肛門付近の血行障害によって起こるいわゆる「いぼ痔」(痔核)ですね。肛門近くの静脈が集まっていう部分〈静脈叢(じょうみゃくそう)〉に血がたまり、そして膨らみ、いぼのように固まるのです。いぼ痔はできる場所により、内痔核(直腸内)外痔核(肛門の出口付近)に種類が分かれます。排便時の脱出程度や出血により進行度が分類されます。初期段階のものは薬や排便方法の改善で良くなります。しかし、しゃがんでもすぐそのいぼが出るようなものならば手術が必要です。手術は結紮(けっさつ)切除療法と呼ばれる方法で行います。簡単に言えば痔核の根元を縛り切り取る方法。それに最近では半閉鎖法という術後処置で痛みが少なく、入院期間もはるかに短く簡単に済むようになっています。まずは専門医の診断を受けてください。


【脱肛は放置せずに専門医へ 適切な処理をするように】

Q.排便時にちょっと力を入れると肛門からイボのようなものが出てきます。指で中に押し込んでいるのですが?

A.排便時などに肛門から脱出するものにはイボ痔、肛門ポリープ、直腸の腫瘍性病変、直腸粘膜や直腸そのもの(直腸脱)などがあります。いずれの場合も“脱肛”に分類されます。まずは、イボ痔が悪化したケースが考えられます。うっ血がひどくなり静脈瘤となって固まり、それが脱出してしまうのです。次に肛門ポリープは肛門上皮の炎症によるもので切れ痔を患っていると起こります。また、直腸内の良性腫瘍が同じように出てきてしまうこともあります。すでに押し込まなければならない状態とすると日常生活もかなりつらくなっているはずです。そのまま放置してもいいことはありません。治療方法は手術が最良ですね。しばって切る結紮(けっさつ)や組織を固める注射の治療方法もありますが根本治療になりませんので注意を。正しい治療を受けるため専門医を訪ねましょう。


【痔瘻を放置すると痔瘻癌に。防ぐには早期の根治治療を】

Q.痔からがんになるという話を聞いたことがあるのですが、本当ですか・・・。

A.いわゆる痔核(いぼ痔)、裂肛(きれ痔)からがんになることはありません。ただし、痔瘻(じろう)を長い間放置すると痔瘻がんになる可能性が高くなります。痔瘻は肛門の周囲から膿が出ている時はさほど痛みや熱がないので、膿の出口が増えてもそのままにしている人が多く見られます。しかし、10年以上、活動的な炎症を繰り返し、複雑な痔瘻から痔瘻がんになるケースがあるのです。痔瘻がんは、普通の膿から粘液性のある膿に変化して初めて判断できるもの。早期に発見するのは困難なんですよ。そのため直腸肛門を大きく切断し人工肛門を施すことになります。ただこうした手術をしても治療成績はよくありません。つまり、死亡率が極めて高いがんなんです。このようなことにならないよう痔瘻は早期に根治治療(手術)するべきものなのです。そのためにも専門医の受診を。


【肛門周辺の痛みやかゆみは強く拭いたり石けんで洗わない】

Q.急に肛門周辺がヒリヒリ痛くなり、かゆみもあります。これも痔の一種?

A.肛門周囲の皮膚は刺激を受けやすいところなんです。たとえば、ニンニクや唐辛子といったものを食べ過ぎて下痢などをすると、頻繁な排便と便汁に加えて吸収されなかったそれら刺激物によって肛門周囲がただれてしまうのです。また、それを不潔だと思い強く拭き過ぎたり、石けんで洗ったりし、さらに悪化させてしまうことにもなるのです。まあ、基本的には、手や足にできる湿疹と変わりはありません。安心して下さい。ただし、炎症がひどい場合は原因が細菌や真菌(カンジダ症や水虫など)、それにウィルス性のものか、あるいはアレルギーなどが考えられます。むやみに軟膏などのクスリを使わないように注意して下さい。なお、かゆみや刺激症状の強くない肛門周囲の皮膚炎症の場合は大腸などの内臓疾患と関係することもあるので専門医に相談を。


【“痔主”はもともと女性に多いが怖いのは女性特有の難治性病気】

Q.妻が痔を患い、病院に行くことを恥ずかしがって拒否しているのですが・・・。

A.もともと“痔主”は男性より女性の方が多いんですよ。主な症例としては便秘が原因とされる切れ痔(裂肛)ですね。次に妊娠出産のとき、肛門に負担がかかり、その影響で痔核(いぼ痔)ができやすい。それで排便時に脱肛し激痛を起こすことがあげられます。わたしの診察経験によると、痔瘻(じろう)に関しては男性に比べ少ないようです。ただし、女性特有の難治性の病気もあります。分娩時の傷による会陰裂傷や直腸膣瘻(膣から便がもれる)になることがあります。さらに、直腸と膣の間が緩む直腸ヘルニア、または直腸瘤が原因で排便障害を起こすことも。いずれにせよ、さまざまなケースが考えられるので注意したいですね。恥ずかしがらずに専門医の診察を受けてください。


【便の状態が気になるのなら大腸肛門専門医に相談を・・・】

Q.最近便が細くなってきました。一度痔を患ったことがあるのですが、それが原因でしょうか。

A.便の大きさや硬さはいつも同じではありません。子供は相対的に太い便、大人は食事や体調によりさまざまです。便の太さを決めるのは便をためて出す直腸と肛門の機能。その肛門がせまくなる痔で、たとえば複雑痔瘻(じろう)や長期的に繰り返した切れ痔が原因で便が出しづらく、細い便にしかならないことがあります。また、いろいろな肛門手術後の術後障害でも肛門が狭くなり同様の細い便になることも。それに最近増えている過敏性大腸炎の人が同じく細い便を訴えてきます。ただし、気をつけなければならないのが直腸肛門部の腫瘍ができた結果、細い便になってしまうこと。血は出ていないが半月状の便が出ると尋ねられ検査すると直腸の肉腫が見つかったこともあります。便の状態が気になるのであれば大腸肛門の専門医の受診を。


【痔の手術は簡単なものなら日帰りでもなにも問題なし】

Q.痔が痛くて仕方がありません。仕事が忙しいので日帰り手術で治りませんか。

A.痔の手術治療には保存的治療(生活改善や便通を正しくしたり、薬を使用)、硬化療法(薬剤の局所注射)、結紮(けっさつ)療法(ゴムで絞る)といったものがあります。このうち硬化療法と結紮療法は日帰り手術で可能です。症例でいえば外痔核(肛門の外のイボが腫れ痛む)や裂肛(きれ痔)の中程度のものであれば日帰り手術で十分治ります。また、肛門の周りが化膿する肛門周囲膿瘍による熱や痛みも日帰りの処置で大丈夫です。ただし、中には程度の重いものや根本的に治すために短期間入院し、適切な手術を必要とする場合があります。すべてが日帰りで済むわけではないのです。いずれにせよ、さまざまなケースが考えられるので専門医の診察を受けてください。初診でおおよその判断はつきます。


【手術をして再発した場合は経験豊かな専門医を訪ねる】

Q.7、8年前に痔の手術をしたのですが、ここ1年、脱肛して出血もします。再手術は必要ですか。

A.手術をしたからといってその内容はさまざまです。どのような手術治療をしたのか患者側が知らなかったり、知らされなかったりするケースもよくあります。まずはどのような治療がなされたのか確認をしてください。もし、手術に問題があるとすれば、例えば次のようなことが考えられます。ゴムでしばる結紮(けっさつ)療法をしっかりしなかった、根本治療をせずにただ切開しただけの安易な手術をしたことなどです。ちなみに痔の手術治療には保存的治療(生活改善や便通を正しくしたり、薬を使用)、硬化療法(薬剤の局所注射)、結紮療法といったものがあります。また個人差はありますが、再発の可能性もありえます。いずれにせよ、経験豊かな肛門科の専門医の診察を受けてください。これまでの経過を話せば、適切な処置をしてくれるはずです。


【痔の予防には正しい食生活と運動を】

Q.よく3人に1人が“痔主”と言われますが、予防する方法を教えてください。

A.まず、最も一般的なイボ痔の予防について。直腸の壁にある内痔静脈叢に血液がたまって膨らんだのがイボ痔ですから、これを防ぐにはまず、同じ姿勢をとり続けないこと。便通を正常にすることも肝要です。お酒、コショウ、辛子、ニンニクなどの刺激物で下痢をしないようにする、繊維質を取り、激しく息むことになる便秘にも注意を。もちろん風呂に入ることやシャワートイレで清潔にすることも忘れてはいけません。血液の流れをよくするという意味では適度な運動も効果的。これらは同様に切れ痔の予防にもなります。そしてやっかいな痔瘻。肛門管の隙間から細菌が入る感染症なので、腹の調子を崩す食事はいけません。腸内の悪い細菌が増え感染しやすくなるのです。何より、規則正しい食生活と適度な運動で快便を心がけることです。


【ゴルフをして痔が痛む場合は程度によっては手術のケースも】

Q.最近、ゴルフをすると痔が出て痛くてたまりません。どうすればいいのでしょうか・・・。

A.ゴルフはボールを打つ瞬間に肛門にグッと力が入ります。すると肛門がうっ血してしまい、血栓性外痔核ができやすくなります。そして、大きな血栓ができると、内出血した固まりのため炎症が起こります。その結果スイングする度に肛門が激しく痛むのです。多くの場合は座薬などで1〜2週間程度で良くなります。しかし、内痔核で、たびたび脱肛を起こすようになり、プレーに支障をきたすほどの痛みが伴うなら、根本治療が必要になります。治療には半閉鎖法という手術が適しています。これで内痔核脱肛による痛みは軽減し、長く患うことなく短期間で完治します。肛門周囲のかゆみや違和感も解消されスッキリするでしょう。まずは肛門科の専門医の診察を受けてください。適切な処置をしてくれるはずです。