先日、新聞・テレビで大腸検査用大腸洗浄液(ニフレック)による死亡事故が報告されました。不安になられている方も多いと思います。大腸検査専門家の責任として、この問題をわかりやすく説明します
なぜ死亡事故が起きたか?
大腸検査では便を完全に洗い流すために2リットルの大腸洗浄液(ニフレック、スクリット、マグコロール、ムーベンなどありますが同じものです)を飲んでいただきます。通常の方でしたら何の問題も無いのですが大きな大腸癌などで腸が狭くなり何日も便が出ないような状態(腸閉塞、わかりやすく言うなら糞詰まり)の方が2リットルの大量の液体を飲むと、液体が出てこないために腸が膨らんでしまい破けてしまったわけです。これが死亡事故の原因です。
どのような場合が危ないのか?
通常、大腸癌の方が検査を受けてもこのような事故は起きません。事故が起きるのは水分も流れないくらいに腸が「完全に詰まってしまった(完全閉塞)」場合です。したがって事故にあわれた患者さん(18名)の多くは洗浄液を飲む前から「もう何日も便がでていない。お腹がはって苦しい。」という腸閉塞の症状がありました
専門家には常識だった
そのような方が大腸洗浄液 を飲むことが極めて危険であることは専門家には昔から常識でした。私たちはそのような腸閉塞の疑われる方には「下剤無しの大腸内視鏡」をおこないます。腸閉塞を起こすような大腸癌はそれでも十分に診断可能なのです。
事故の頻度は?
日本ですでに1700万人の方が大腸洗浄液を飲まれました。事故が起きたのは18件(うち死亡事故が6人)ですので「100万人に一人」の事故です。患者さんと医師の両方に「特殊な事情があった」場合にのみ起こる稀な事故といえます
事故を予防するには?
当院では(1)前日に粉の下剤を飲み、翌日に排便を確認してから大腸洗浄液を飲む(2)便秘の方は市販の下剤を3日前から飲んでいただき十分に排便していただく(3)大腸洗浄液を飲んでいて腹痛が見られたら中止して連絡していただく、という方針で検査をおこなってきました。年間5千件近い大腸検査をおこなっておりますが大腸洗浄液の事故は1件も発生していませんし、これからも起きないと考えています
今後どうなるか?
大腸検査は昔は大腸洗浄液以外の方法(たとえば肛門からお湯を何度も入れて洗浄する方法)でおこなっていました。しかし、それでは便がのこり、早期がん(特に平坦型)の発見が難しくなります。精密な診断のためには大腸洗浄液は不可欠なものです。私は正しい手順で大腸洗浄液を服用される限り事故は起きないと確信しています。また、今回の報道で「いたずらに患者さんが不安になると逆に、大腸癌で亡くなる方が増えることになるのではないか」と心配すると同時に「この報道により全国の医師が、大腸洗浄液に、より慎重になるなら日本の医療にとってよいこと」と考えています