はじめに
患者さんから以前、「痔ろう手術体験談」をHPに投稿していただいたのですが、HPを見た患者さんから「体験談は入院中の励みになった」と好評を得ていました。
そして今回、ついにといいましょうか・・・当サイト管理者自身は痔核の手術を受けました。
自分が手術を受けた以上、自分の体験を他の患者さんの励みのためにささげることはもはやHPを管理する者として「義務である」と感じた次第です
反面教師にして下さい
後述しますが・・実は私は手術後、ほとんど安静をとらなかったため、術後いろいろとトラブルを経験しました。医師の指示を守れば、通常はこのようなことはありません。私の体験はどちちらかというと反面教師になると思います
なぜ手術を決意したか
手術を決意した最大の理由は仕事の大きな転機でした。以前から痔核があることは自覚していたのですが、数ヶ月に1回位で痛くなることがあってもたいていは薬をつけて1〜2日、仕事をセーブすることでしのげていました。
しかし、今回、仕事の内容が大きく変わり、責任も大きくなり今までのように休みをとれなくなることになりました。今回、残業後痔が痛くなったのを機に「これからは痔で苦しんでいる暇はない!」・・「今のうちに完治させてしまおう」と考え手術を決意しました
医師をどう選んだか
私の住まいS県にはもちろん、近場には肛門科を掲げている医院はたくさんあります。しかし、医療の実態をよく知っているので・・・・「近場で済まそう」という気は毛頭なかったです。自分が以前、勤務し、技術レベルを十分知っているT県のT病院(家から車で2時間)に直ちに連絡しました。家から遠い・・・というのは私たち専門家は「重要なことではない」と考えます
最初に悩んだこと
私の場合は担当医師の技術を全面的に信頼していたのでこの点で不安がなかったのでかなり心理的に楽だったです。
しかし、多くの患者さんにはこの点できっともっと、悩まれるのではないかと思います。
この点が解決したら次の悩みは仕事の穴をどう埋めるか・・・でした。本当は夏休みなどに治しておけば、よかったのに今回は待つ余裕が無く、同僚の医師にたのんでなんとか穴埋めしました。一応、仕事に穴はあけなかったのですが・・・医師が変わったことで多くの患者さんに不安をあたえてしまいました・・
HPの重要性を痛感
今回は自分が専門の病気だったので今さら、HPで調べることは無かったのですが、以前、女房が病気になった時に婦人科のHPで最新治療の経験の多い医師を探しました。この時、医療機関のHPの重要性を痛感しました。
感じたことは患者さんは総論的な情報を必要としているのではなくて
(1)自分の病気の最新の治療法は何か
(2)その治療法の経験の多い医師はどこにいるのか
(3)具体的に医師の治療実績、手術経験数はどれだけか
・・・「だけ」で医師の趣味とか、自慢とか、歴史とか、デコレーション、決まり文句、詳しすぎる解説などは「邪魔に」なるのだな・・・と痛感しました。
入院手続き
入院予約に行ったときは受付の女子(全て、顔見知り)が必死に笑いをこらえているのがわかりました。(電話の向こうからは大笑い声が聞こえました)
・・が、特に恥ずかしいとか、カッコ悪いとかはもはや無かったですね・・・モデルのような美女や俳優のような二枚目も、大会社の社長さんも、患者さんにたくさんいることを十分知っていましたから
(・・ただ一般の方ですとここまでは割り切れないでしょうね)
ついでに色々健康診断
貴重な時間を使って入院したのだから・・・この際全部、と考えて胃カメラ、大腸内視鏡、腹部CT、胸部CTと幅広く健康診断的に検査をおこないました。今まで「そのうち検診を受けたいが時間が・・・」と思っていた思いを全部、実行したわけです
内視鏡検査
これは私の専門分野なので、そのうち自分でも受けようと思っていたのですがなかなか時間がとれずにいました。
今回念願が(?)かないました。2リットルの下剤はオレンジジュースのようなもので私はテレビを見ながら1時間で飲んでしまいました。(女性はもっと大変と思います・・)。飲むのは苦痛でなかったのですが、何度もすごい下痢になりお尻がいたくなり最後のトイレは地獄でした。
検査は鎮静剤を注射してウトウト・・・としているうちにあっけなく終わってしまいました。私の場合は自分が技術を知っている医師に頼んだので検査の苦痛、事故、見落とし、器具の消毒などに関しては全く不安は無く、非常に心理的に楽でした。最後に看護婦さんが「先生、何も異常がなかったですよ」と声をかけてくれた時は本当にうれしくなりました。(・・・本当に、中年看護婦さんが天使に見えた。)以後、「自分は健康なんだ」と考えると、妙な自信がわいて仕事をしていても大きな充実感を感じるようになりました。
手術(麻酔)
腰椎麻酔(腰に刺す麻酔)は通常の注射よりもはるかに細い針を使いますからほとんど痛みはありません。私はこのことを十分、知っていたので特に不安は無かったのですが、やはり一般の方は「見えないところ、背中に刺される」ということで大きな恐怖を感じると思います。人間は未知のもいのには不安を感じます。知ることで診療に対する不安が小さくなります。これから検査、手術をうける方に不安を取り除いてあげる・・・というのも、HPの重要な使命だと思いました。
そして手術開始・・・鎮静剤を使ってしまいました
腰椎麻酔により理論的に痛みは完全に無くなっているのですが・・・・手術中は「肛門・・というよりも内臓・・・がいじられている、ひっぱられている感じは残り、なんとも虫ずが走るような不快感を感じました。
執刀医にお願いして「鎮静剤」を注射してもらいました。緊張がとれ「ウトウト・・・」とよい気分になり、気がついたら手術が終わっていました。これから手術を受けられる方で緊張しそうな方は遠慮せずに医師に「鎮静剤希望」といっていいと思います。腰椎麻酔で肉体的苦痛は無くなりますが、心理的苦痛(不安、緊張)まではなくなりません。
手術後・・お腹が張って
腰椎麻酔は腸の動きも止めます。麻酔が覚めるまで腸が動かないためガスがたまります。翌日、最初の排便があるまで、お腹が張ってつらかった・・。私はなんとかしのぎましたが、つらかったら遠慮せず看護婦さんにたのんで痛み止めを飲むなり、注射するなりしましょう。正直なところ痔の手術に腰椎麻酔が必要か?考えてしまいました。伝統的に日本では痔の手術は腰椎麻酔でおこなわれるのですが海外では局所麻酔が好まれます。痔の日帰り手術などは腰椎麻酔でなく局所麻酔などで問題なくおこなわれます。これでしたらお腹がはることはありません。
排便後の痛み
「お腹が張って苦しいので早く排便したい・・・」と思っていましたが排便時は・・・やはり痛いです。・・・最初は冷や汗を流しながら排便しました。実は私は本来、下痢ぎみなので下剤は飲まなかったのですが、考えを改め下剤をの飲み「下痢気味」にすると信じられないくらい痛みが軽くなりました。やっぱり標準どおり薬は飲んだほうがよいですね・・
お風呂に入ったら・・・魔法のよう
そんな排便後の激痛も温浴すると魔法のように痛みが消え、「極楽、極楽・・」とつい鼻歌がでてきます。お湯はやや熱め(42〜43度くらい)がいいです。ただ、入院中はどうしても好きな時にいつでもお風呂というわけにはいきません。これが一番つらかったです。自宅療養でしたら、1日中、お風呂を暖めておき、「痛くなったら、いつでも温浴」ができます。この点は、入院と比較して日帰り手術(外来手術)の最大のメリットと感じました。
4日後に退院、仕事復帰
通常でしたら10〜14日間、入院するようなかなり大きな痔核(かんとん痔核)を3個切除したのですが・・・・どうしても仕事に復帰しないわけにはいきません。検査の予約をいれた患者さんが、待っています。
「仕事が忙しいんです・・・」と訴える患者さんにいつもは「術後は十分に安静をとらないとだめだよ」といっているくせに、自分がいざその立場になると、「痔でいつまでも休んでいられない」という思いに。
・・・・しかし、これが無理のもとでした。
手術自体は全く完璧なものだったのに術後の安静をとらなかったため、術後トラブルをフルコースで体験することになりました。
排便のコントロールがポイント
退院後は持続的な痛みは無く、これなら仕事可能と判断したのですが排便後は強い痛みのため温浴が欠かせません。
排便のリズムを調整するための下剤の時間がポイントです。
私の場合は、軟便剤を朝と夜にの飲むのがちょうどよかったです。夜の下剤で朝、排便あり・・温浴、30分ほど休んでから出勤。仕事中は便意なし。帰宅後、朝の下剤で排便あり、・・温浴して30分、休んで食事。というリズムになりなんとか仕事が可能でした。
このリズムが狂い、勤務中に便意をもよおすと温浴なしでオシュレットだけで排便しなければならず、これだけは回避したいと願っていました。
腫れた!
仕事復帰後、しばらくは前記のように排便リズムを調整すれば仕事自体は手術前と全く同じように可能でした。私の専門・・大腸内視鏡と痔の日帰り手術をペースダウンすることなくこなしていきました。
・・ところが1日中、座っていたためか、退院4日後の夕方、検査中お尻が痛くなってきました。自分で内視鏡を使い、肛門を見てみたら昨日まできれいだった傷が2cmほど丸く、腫れています。
肛門の手術後の「傷の腫れ」は運が悪いと起きてしまうもので痛みが強いのですが、数日でひいてきます。このような事情をよく知っていましたので何の不安もなく痛み止めを大目に飲んで仕事を続けました
出血した!(外側から)
さらに数日後、診察中、なんとなくお尻がぬれる感じがしてきてあわてて見てみたら下着が血で真っ赤に。
肛門手術後の出血は2タイプがあり、外側の皮膚の傷がこすれて出血するものと肛門の中、内痔を切除した部分から出血する場合があります。前者は出血の量も少なくたいていは安静にしていると止まりますが、後者は出血量が多く止血処置が必要になります。
この出血は外側の皮膚の傷からの出血と判断。あわてることなく、仕事が終わったあと、クリニックで少し横になり、自宅にはタクシーで横になったまま帰宅。家でも横になったまま、おにぎりを食べて「じー」とひたすら安静(動くと肛門の皮膚がこすれて出血する)にしていたところ夜半には無事、止血しました
出血した!(今度は中から)
退院して2週間目、大腸内視鏡検査の撮影がありました。これは、医学教材を出版しているMM社との約束で医学生向けのCDROM教材用に私の大腸内視鏡検査を撮影するものでした。以前からの約束なのでキャンセルするわけにもいかず、撮影(解説などをいれて約2時間)をおこないました。
やはり撮影されながらの検査というのは非常に緊張します。
撮影自体は無事、完了したのですが・・・・そのあとお腹がグルグルいってきてあわててトイレに駆け込んだところ、便器がいっぱいになるほどの血便!これはまぎれもなく肛門の中、内痔を切除した部分からの出血です。原則的には何らかの止血処置が必要なものです。
再びT病院に
もう一度、麻酔をかけて手術室で止血処置をする必要があります。手術したT病院までは車で2時間かかります。急ぐべきと考え、近くのJ医科大の救急外来に電話してなんとか応急処置をたのもうとタクシーにのりました。しかしタクシーの中で考えが変わりました。専門医と専門としない外科医とでおこなう処置に大きな違いがあることを十分、痛感していました。止血処置は決して簡単な処置ではなく、不適切におこなうと後でトラブルを起こすことも知っていました。タクシーの中で「なんとかいける」と判断し、携帯電話でJ医科大をキャンセル、T病院に連絡し、遠路T病院に向かいました。緊急で手術室に入り直ちに止血処置をおこないましたので出血量はわずかですみました。今回は緊急だったため代理の医師は都合がつかず、翌日退院し痛み止めを打って、仕事に復帰しました。
最後の悩みは滲出液
動くと傷がこすれるためなのですが、傷から粘液が出てきて下着がひどく汚れるのが、まるで失禁しているようで心理的につらかったです。これは、痛みや出血が無くなった後もしばらく続いて仕事をしている時にもわずらわしいものです。
患者さんで「便が漏れている」「化膿して膿が出ている」と心配される方がいますが、これらは傷からの粘液です。
女房からは「産後みたいね・・」といわれました。女性の苦しみが少しはわかった・・かな?
最後に・・・手術してよかった
トラブルがいろいろありましたが・・・・今は「手術してよかった」という思いが強いです。終わることの無い永遠に続く苦痛は我慢できないものです。少々大変でも一度の短期間の苦痛で全てが解決するなら、それは我慢できます。
教訓 |
やはり術後の安静が大事
私が経験した術後のトラブルはめったに起こるものではありません。幸か不幸か私は手術後の安静がほとんどとれなかったため、めったにはおきないトラブルをフルコースで体験できました。(まあ・・これはこれで肛門科の専門医師として貴重な体験だったと思いますが・・・。)私が言っても説得力が無いのですが、術後は医師の指示をまもり、しっかり安静をとりましょう。
軽いうちに手術しましょう
私は時間がとれず、延ばし延ばしににしてかなりひどくなってから手術に踏み切りました。私の術後の辛さはおそらく「横綱級」で、大部分の方はこんなには大変ではありません。もっと軽いうちでしたら術後もはるかに快適でしたし、入院せずに日帰り手術も可能でした。
医師の選択は妥協しない
私の場合は、技術を全面的に信頼している医師に手術をお願いしたので、術後のトラブルがおきても「安静をとらなかった自分のせい」と割り切れました。もし近場ですまそうとして専門でない医師に手術をうけていたらここまでは割り切れなかったでしょう。微妙な場所の手術ですから、何らかの大小のトラブルは必ず起きます。その時に「別の医師に手術をうければよかった」と考えると患者さん自身が心理的に苦しむことになります。技術レベルを十分、納得できる医師を選ぶことが術後を楽にするために最も大事です。
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