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3、内視鏡は決して安全な検査ではない

前章で内視鏡検診の大きな意義が御理解いただけたと思います。いよいよ本題にはいります。内視鏡検診の問題点を解説いたします。内視鏡の最大の恩恵は微小がんの早期発見にあります。しかし微小早期がんは症状がなければ血液検査等でも異常はみられませんので発見するためには健康な方が積極的に内視鏡を受けなければなりません。残念ながら症状がでてからでは十分な恩恵が受けられない可能性が高いのです。内視鏡が血液検査や心電図検査のように安全快適な検査なら問題は無いのですが決してそのようなことはありません。

まず胃内視鏡ですが、内視鏡初心者が内視鏡を無理に入れようとして喉が傷つき緊急手術になることがあります。最近は胃内視鏡が細くなり、事故は激減しましたが、それでも時々耳にします。また大腸内視鏡は胃内視鏡より技術的にはるかに難しく事故もはるかに多く発生します。腸の屈曲部を無理に通過する時に腸の壁を傷つけ、最悪の場合穴が空いてしまいます。医師が事故に気づき緊急手術をおこなえば大事にはいたりませんが、医師が経験不足から事故にも気づかないでいると便(多量のばい菌を含む)がお腹の中にひろがり腹膜炎から敗血症になることもあります。こうなると手遅れで命を落とすこともあります。これらが検査にともなう事故の主なものです。更に検査の際使用する薬剤(麻酔薬等)によるショックの事故も時に報告されます(最もこれは薬を使用する全ての医療に共通したことなので本書の主旨とはやや異なりますが)。

(内視鏡治療、内視鏡手術をおこなう場合は事故の危険性は更に高くなります。しかし本来、開腹手術でおこなっていたものを内視鏡治療をしている訳ですのである程度の事故の危険は仕方が無いともいえます。やはり検診にともなう事故がもっとも深刻な問題です。)

内視鏡事故の原因は約9割は医師の技術的理由によるものです。約1割は患者さんの体質的問題が原因で、経験豊富な医師が十分慎重におこなったのに不可抗力的に発生しています。

どういうことかというと例えばあらかじめ大腸バリウム検査にて腸の奥に病変が確認されており内視鏡をどうしても奥までいらなければならなかった場合で患者さんの腸がひどく癒着し長く曲がりくねっており内視鏡挿入が極めて困難な場合などがあります。難しいケースではどんなベテランでも100%無事故という訳にはいきません。

このようにかなり医師に同情の余地のある事故もありますが、事故のほとんどは医師の技術力に問題があるからです。これは主に3つのパターンに分けることができます。

  1. 大学病院で未熟な若い医師の起こす事故
  2. 営利目的から十分な経験、技術が無いのに検査がおこなわれたことによる事故
  3. 医師の経験、技術は十分あるはずなのに医師の性格的問題から起きた事故
  4. 大学病院は最高の医療設備による治療が受けられる変わりに研修医の研修対象になるのはシステム上避けることはできません。患者さんを治療するだけでなく、若い医師を一人前に育てるということも大学病院の使命だからです。このような点を了解した患者さんが大学病院を受診していますし、もしもの時は上級医が必要な処置をすぐに行いますので1、の事故が社会問題になることはあまりありません。

    最も多く、最も悪質なのは2のタイプの事故です。

    前述したように日本ほど内視鏡の盛んな国は無いのですが、全ての内視鏡が医師の「がんを無くしたい」という純粋な熱意で行われているわけではありません。国民全員が医療保険にはいっていて「医療費のとりっぱぐれ」の心配の無い日本では内視鏡は手軽に稼げる「病院経営の優等生」なのです。また現在のシステムでは医師免許を持った医師はだれでも内視鏡をおこなうことができます。そのため内視鏡の専門家以外の医師が幅広く内視鏡をおこなうようになりました。中には営利目的の非常に質の低い検査もおこなわれているといわざるをえません。そのような場合、内視鏡は決して「安全な検査」とはいえません。

    では経験豊富な専門家なら絶対大丈夫かというとそういう訳ではありません。やや特殊なのですが、第3のタイプの事故もあります。経験数からいうともう事故を起こすべきでない専門家なのに自信過剰で、「患者さんへの思いやりが欠如している」といいましょうか、「懲りない性格」といいましょうか、検査時間は恐ろしく早いのに時々事故を繰り返しおこす専門医師もいます。

    患者さんにとっては恐ろしいことですがこれが現実です。もちろん多くの医師は患者さんのためになるよう最大限の努力をはらっています。運が悪いと不良医師に当たってしまうということです。そうならないようにするには患者さんは「商品を選ぶ消費者」にならなければならないのです

     

 

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