最新情報

LINK
ピロリ菌と胃癌
内視鏡・COM
本郷メデイカルクリニック



 

大腸 肛門科疾患のポータルサイト:大腸・COM(http://daichou.com)

 

過形成ポリープの正体・・・・・直腸の場合



この内視鏡写真は直腸の「多発性の微小過形成ポリープ」です。頻度の高い病態で、特に高齢者は高頻度に見つかり「直腸の老化現象」と言っても過言ではありません。

前記事にあるように医学は「危険な過形成ポリープを放置する」という過ちを犯しました。
もし、自分の直腸に、このようなポリープが見つかったらどうするべきか?
正解はブラックボックスなのですが、最新の知見を元に、この「仮定」に対して、できる限りの考察をして見ましょう


現在の専門家の考え


専門的な話になるのですが、現在のガイドライン(専門家の統一見解)は以下のようなものです

現在、鋸歯状ポリープは(1)微小過形成ポリープ、(2)SSAP、(3)TSAの3つに分類されます。

このうち(2)と(3)は癌化リスクが「高」で切除すべきとされています。

(1)は癌化リスクが「低」で切除不要と予測されています。

しかし、稀に(1)も直接、癌化する可能性があるではないか?あるいは(1)は(2)、(3)に移行する可能性があるではないか?
という危惧から、「5ミリ以上は切除しよう」というガイドラインになっています(文献


この分野は遺伝子レベルでの研究が精力的に行われており、近い将来、より明確なガイドラインができるでしょうが、現時点ではら、これらの予測は全て「予測」で科学的な証拠は不十分です。


直腸の微小過形成ポリープが癌化リスクが「低」と予測されている根拠

(1)前記事にあるように「ポリープ切除で大腸癌を予防する研究」で過形成ポリープ由来の「見落とし癌」が注目されたのですが、問題となった「見落とし癌」は体の右側(盲腸の近く)の癌でした(文献)。つまり「普通に腺腫だけを切除していれば」直腸癌は予防できると言える訳です。

(2)鋸歯状ポリープが治療対象と考えられなかったころに、大きな過形成ポリープ(SSAP)を経過観察したら癌化したという症例報告がありました。しかし、今日まで直腸の微小過形成ポリープが癌化したという報告はありません。


直腸の微小過形成ポリープがSSAP,TSA、癌へ移行すると予測されている根拠

(1)最も重要な根拠は癌遺伝子の変異が同じだということです。専門的にはBRAF、CIMPと呼ばれる遺伝子変化なのですが、上記の3兄弟は大きさ、後発部位、形態などの、いわば「顔つき」が違うだけで遺伝子のレベルでは兄弟であることが確実なのです。つまり「臨床報告」という医師の経験的な知識では「シロ」なのですが、最新の遺伝子解析は「クロ」なのです。

(2)鋸歯状ポリープが癌化すると「鋸歯状癌」という独特な形態の癌に変わると予測されています。「鋸歯状癌」の60%が盲腸の近くに、そして30%は直腸に発生します。(文献)前者はSSAPから、後者はTSAから発生するのではないかと予測されています(文献)。しかし盲腸にSSAPが見つかることは多いのですが、直腸でTSAが見つかることは非常に稀です。

(3)更に言うなら直腸は通常の腺腫自体、見つかる頻度が低いです。大腸癌の中で直腸癌は3割を占めます。しかし、その割には腺腫もTSAも直腸に見つかることが稀なのです。直腸で最も多い良性病変は微小過形成ポリープであり、これが直腸癌に変わると仮定すると「統計的な矛盾」が解消するのです。


直腸の微小過形成ポリープは皮膚のホクロ(母斑)と同じかもしれない。

ホクロが癌化することは極めて稀です。しかし稀にホクロが癌化すると「悪性黒色腫」という非常に悪性度の高い癌に変わります。

興味深いことに過形成ポリープはホクロと遺伝子レベルで非常に似ているということが分かってきました(文献)専門的な話なのですが非常に興味深いので御紹介します

ホクロも過形成ポリープも最初のステップはBRAFという遺伝子の変異です。

これにより「爆発的な細胞分裂」を起こします。
次に「発癌遺伝子誘発性の細胞老化」という現象を起こします。
p16INKという「ブレーキ」が作動するのです。すると細胞分裂が突然、停止します。

そして過形成ポリープも皮膚のホクロも、まるで「冬眠状態」になったように細胞分裂を停止したまま何年も過ごします(文献

多くは、そのまま一生を終えるのですが、運悪く「ブレーキp16INK」が壊れると・・・・
過形成ポリープは予後の悪い癌に変わり、ホクロは「悪性黒色腫」に変わります。
一旦、癌化のスイッチが入ると、その後の変化は極めて急速と言われています(文献




結論に代えて

実は私自身、数年毎に「自分の大腸内視鏡」を自分で施行しています。毎回、微小な過形成ポリープが数個、見つかります。5ミリ未満ですが、私は自分の責任と判断で、全て自分で切除しています。このようなLow Risk病変に対しては医師が積極的に切除を勧めるべきではありません。しかし皮膚と異なり、大腸を観察するのは1日がかりの大仕事です。「患者さんが切除を希望する」なら医師は治療を躊躇すべきでない、と考えます。

微小な過形成ポリープが数個しかないなら・・・・完全に切除してしまえば、大腸癌のリスクは「ポリープが全く無い人」と同じになると予想されています。この場合、(米国のガイドラインでは)再検査は10年後でよいとされています。

微小な過形成ポリープが多発しているなら・・・・・この場合は広い意味で「過形成ポリポーシス」と呼ばれる範疇に入ります。大腸癌のリスクは無視できません。極力、1個も残さず完全に切除すべきです。状況にもよりますが1度に20個位までは問題ありません。ただし「安全のために」という理由で、1度に切除する個数を少なめにして何度にも分けて切除するのは賛成できません。そのような診療は患者さんの利益のためというよりも医師の保身・利益を重視した場合が多いと思います。


(文責 本郷メデイカルクリニック 鈴木雄久)

その他の最新情報