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 プロバイオテックスは遺伝子解析の時代へ(Science Transl Med 26 october2011)

 

「生きたまま腸に届く」・・・・・ヤクルトの創業者・ 代田 稔博士が京大時代に 強い酸性培地で乳酸菌を培養し、胃酸で死なない乳酸菌を分離したことが現在の「プロバイオテックス」と言われる分野の先駆けです。

しかし「口から摂取された乳酸菌が腸内でどの程度増えるのか?」は議論がありました。

従来の研究は被験者の便を培養して調べるという方法でした。しかし、この方法では「培養されやすい菌(大腸菌)」の影響が大きく乳酸菌は培養で増えにくい(空気に触れると死ぬ)ことが研究の大きな障壁でした。

今回の研究ではトランスクリプトーム解析という手法が、この分野に応用されました。

これは最近、様々な分野で応用されている技術です。DNAマイクロチップを用いて何十万ものRNA(=遺伝子の発現=トランスクリプション)を網羅的に調べてコンピューターで膨大なデータを解析するという手法です。細菌の死骸でも十分な研究材料になり「腸内で何が起きているのか」を網羅的に調べることができます。


このような膨大なデータをコンピューターで解析して「植物性繊維の分解に関する
代謝のプロフィール」が大きく変化していた、との報告なのですが・・・・・・・
トランスクリプトーム解析の具体的内容は数学的に難解で我々医師には理解できません。

 

遺伝子工学を駆使した全腸内細菌の解析計画で紹介した論文と本質的に同じ手法です(前の論文はゲノムDNA,今回はRNAという部分が違います)

一卵性双生児の人にヨーグルトを食べさせ便を取りトランスクリプトーム解析することにより、プロバイオテックの経口摂取で腸内の細菌の代謝が大きく変化することが人で確認されました。ただし、この論文によると・・・「口から摂取された菌が腸内で優位になる(腸内細菌叢が変わる)」という現象は確認されませんでした。しかし口から摂取されたプロバイオテックス菌は確かに腸内で「増殖」し、既存の腸内細菌がこれに「反応」して代謝を大きく変化させていることが確認された、という内容です。


この論文は「どのメーカーのヨーグルトを食べれば、どのような効果があるか」までは述べていません。

この論文のポイントは「プロバイオテックスの効果を人で科学的に検証する手段を確立した」ということです。

今までの基礎研究の多くはマウスで行われていた訳ですが、マウスと人では腸内細菌叢が違いますから、マウスでの実験の解釈には限界があった訳です。

「プロバイオテックス」という予防医学的にも重要で、市場としても巨大な分野に「最新の分子生物学」が導入されたというのが、この論文の「結論」です。消費者に有益な知見が得られるにはもう少し時間がかかるでしょう・・・・しかし、この研究は革新的なものでしょう。

ところでヤクルトは単なるヨーグルト販売会社ではなく腸内細菌研究で世界の最先端の研究機関のひとつです

最近の業績ではScience.2010.12.23では「クロストリジウム菌がTreg細胞を誘導する」やCell 2009.10.151では「SFB菌が腸内Th17を増加させる」など、この分野で世界の超一流誌に研究を発表しています。

「口から摂取された菌は生きたまま腸に届き、既存の腸内細菌がこれに「反応」して代謝を大きく変化させることは証明されたが腸内で優位になる(腸内細菌叢が変わる)」という現象は確認されなかった」という今回の報告はヤクルトの効果を「半分は証明し半分は否定した」とも言えます。

ヤクルトが今後、どのような研究を進めるか?注目したいと思います

補足:「便中の遺伝子を調べる」という研究はVogelstein博士(参考)が1990年代後半に、世界で最初に報告しました。当時は専門家から「無謀な研究だ」と嘲笑されたものです。隔世の感があります。

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