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二重攻撃で大腸癌との戦いに勝つ
・・・・大腸癌の分子標的薬は「多剤併用」の時代へ

白血病に使われるグリベックという分子標的薬は「かって、これほど有効な抗癌剤は無かった」と言われるほど多くの患者さんの福音になっています。大腸癌は白血病と同じ、あるいはそれ以上に遺伝子解析の進んだ癌です。現時点で「大腸癌のグリベック」はありませんが・・・・・開発の準備は着々と進んでいます


成長と分裂を抑制する分子標的薬の併用

個体が成長する時、細胞の個数が増える現象(=細胞分裂)と細胞のサイズが大きくなる現象(=細胞の成長)が起きます。

この二つの現象は、通常は「同期」しているのですが実は「独立して」制御を受けていることが最近解ってきました。

最も解り易い例は動物の卵です。

卵母細胞は受精後の栄養を蓄えるために細胞分裂をせず細胞成長のみおこないます。我々が食べる卵も1個の巨大細胞です。しかし受精後、受精卵は細胞成長をせず細胞分裂のみを繰り返します(卵割と呼ばれる現象です)

癌細胞もまた我々の体内で成長するためには細胞分裂だけでなく細胞成長も必要です。もし成長が不十分なまま分裂を繰り返せば癌細胞は分裂の度にどんどん小さくなりやがて栄養不良で死滅します。しかし癌は分裂だけでなく成長も「異常亢進」しています。PETによる癌の診断というのは、成長の亢進(=栄養分、特に糖の取り込みの亢進)を利用しています。

古典的な抗癌剤というのは全て細胞分裂を阻止する薬です。理由は癌の研究が細胞分裂の研究から始まったからです。

最近、細胞成長のメカニズム()が解明されて、細胞の死(アポトーシスと呼ばれます)の回避と深い関係があることが解り、最近この細胞成長を阻止する新しいタイプの抗癌剤(分子標的薬)の開発競争が盛んです。(専門的にはPI3K/AKT/mTOR経路と呼ばれます)。日本でも最近、mTOR阻害剤が腎臓癌へ適応となりました。

このような研究は最近のメタボリック・シンドロームの研究と深い関係があります。「栄養過剰による発癌」は最近、非常に注目されています。メタボの人は癌の発生が高く(参考)、メタボの治療薬に抗がん作用があるのですが、それはメタボと癌の両者ともに成長経路(PI3K/AKT/mTOR)が亢進している共通点があるからなのです。

そして、自然な流れとして「分裂阻害薬」と「成長阻害薬」の二つの分子標的薬を併用すれば癌に劇的な効果があるのではないか?と期待されていた訳なのですが・・・・・

2012年3月初めてこの併用療法が有効であるという臨床試験の報告がありました(80名の患者さんが参加。内訳は前立腺癌、大腸癌、卵巣癌など)

 

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RAF阻害剤の大腸癌への応用(Nature 01 March 2012)

 

これは大腸癌細胞が増殖する際に最も重要な経路となるものです。

増殖因子(EGF)が受容体に結合し活性化すると・・・

RASが活性化されます。すると・・・・

次にRAFが活性化され細胞分裂のスイッチが入ります。

大腸癌では、このスイッチが「常にON」になっている訳です。

これらの知見は20世紀後半、癌遺伝子の研究が解明した最も医学的に重要な研究です(研究者の多くがノーベル賞を受賞しました)

21世紀は、この知見を元に「細胞分裂の鍵となるこれらの分子を抑える薬(=分子標的薬)」の臨床応用の時代です。

現時点で「増殖因子(EGF)受容体・阻害剤」と「RAF阻害剤」が開発済みです。

以前の記事で、最近「RAS阻害剤」も開発されたことを報告しました。

最新の「RAS阻害剤」は、まだ「動物実験」の段階ですが「増殖因子(EGF)受容体・阻害剤」と「RAF阻害剤」は臨床応用されています

このうち大腸癌に適応があるのは「増殖因子(EGF)受容体・阻害剤」だけです(記事)。

「RAF阻害剤」は適応ではありません。何故かというと、単純な話で「RAF阻害剤は大腸癌に効かない」という臨床試験の結果があったからです。

大腸癌はRASの変異するタイプ(腺腫由来の癌)とRAFが変異するタイプの癌(鋸歯状腫瘍)に大きく分けられるのですが、本来はRASもRAFも同じ経路に働く遺伝子なのです。

同じ経路に作用するのに、EGF受容体・阻害剤は効いてRAF阻害剤が効かないのはなぜか?この素朴な疑問を誰も真剣に問題視していませんでした。

今回のNatureの報告はこの問題を研究したものです。

RAFと増殖因子(EGF)受容体の間には「フイードバック機構」があり「RAFを阻害するとEGF受容体活性が亢進し最終出力は一定に保たれる」というのが、その理由であると解りました。

更に重要なことに・・・このグループはRAF阻害剤に増殖因子(EGF)受容体・阻害剤を「併用」すると大腸癌への治療効果が相乗的に増強すると報告しています。

現在、大腸癌に適応のある分子標的薬は アバスチン(血管新生因子に対する抗体 ) と EGF受容体・阻害剤の二つなのですが、前者には最近効果を疑問視する報告があり問題になっています。

そういう意味でEGF受容体・阻害剤だけが「唯一つの希望」なのですが 「RASに変異が無い大腸癌」しか適応になりません。これは大腸癌の半分以下です。

RAF阻害剤とEGF受容体・阻害剤の「併用療法」は、理論的に「RASに変異の有る大腸癌」にも有効です(情報伝達の下流に作用するからです。細胞内情報伝達系を阻害するには「より下流」を狙うのが基本戦略なのです)


分子標的薬というのは「ピンポイント攻撃」が特長です。大腸癌で変異している遺伝子は複数あり最近、その全てを解明したという報告がありました(記事)。

それらの各分子を狙った、「ピンポイント攻撃」を複数併用すれば効果が相乗的になる・・・・これは合理的な話です。

従来「抗癌剤の多剤併用療法」というのは経験的なものでした。

しかし分子標的薬は「ターゲットとなる分子がどのような働きをしているか」が研究者により解明されており「どのような薬の組み合わせが理論的にベストか?」が予測できるというのが最大の強みなのです

薬剤Cと薬剤Dを併用するのは合理的だが、薬剤Cと薬剤Eの併用は意味が無い・・・・ということが理論的に予測できる

癌細胞の増殖の情報伝達系・・・・・これらの構成分子は全て分子標的薬のターゲットの候補となる。

このような研究報告は最近増えており大腸癌の分子標的薬治療も近い将来大きな転換を起こすと予想します。(おそらく最も大きな問題は治療費が極めて高額になるということでしょう)

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